事故事例の目的としては、事故の再発防止・未然防止を目的として、現場で発生した事故や、ヒヤリ・ハット等の情報を収集・活用し、対策を講じることができます。
ハインリッヒの法則では、1件の重大な事故・災害の背後には29の軽微な事故があり、その背景には「ヒヤリ」としたり「ハット」したりするような300の出来事が存在するといわれています。
大事故は、偶発的に起こるものではありません。日常の「ヒヤリとする体験」や「ハッとする出来事」は、いずれ大きな事故につながる前兆であることを理解し、このような体験や出来事があった場合はそのままにせず、何らかの対策を講じておく必要があります。
また、日頃からヒヤリ・ハット事例を記録し、事例を出し合い共有することもリスクマネジメントの観点からは大切なことです。
作業者が、現場の安全を確保するためには、どのような事故が発生しているかを知ることが大切で継続的に情報収集することが重要です。
事故の状況
当事業場はファミリーレストランであり,職員である被害者 Tが, 8時 40分頃,冷蔵庫およ び冷凍庫を点検していたところ,庫内の温度が 設定値まで下がっていないことを発見した
冷却用の機器の故障と思い,被害者 Tは,設備業者へ電話連絡し,故障内容を話し,至急点 検・修理をしてくれるよう依頼した. 9時頃, 設備業者の担当者から電話が入り,現在他の事 業場で作業中のめ,点検・修理に行けない旨の連絡があった.
さらに,その時,点検箇所を指示するので,レストラ ン側でチェックして欲しいと被害者 Tに要請があった.
点検指示内容
(1) 冷凍機用制御盤のサーマルリレーが動 作していないか.
(2) 屋外設置の冷凍機用コンプレッサにビ ニール袋をかぶせたプレッシャスイッチがあ り,その中に赤いポタ ンがあるので,その赤いボタンを押してみること.被害者 Tは,設備業者の指示に従い,赤いボ
タンの場所をあちらこちらと捜したが,なかな か見つけ出すことができず,屋外設置のキュー ビクル内にあるものと思い,鍵を持ってキュー ビクル設置場所へ行き,正面および裏面の扉を 開 い た
裏面から中をのぞくと,赤いキャップのつい た端子が見受けられ,あせっていた被害者 T は,「これだ I」と思い,思わずキャップ部分を 右手親指でボタンを押すように押してしまっ た.その瞬間,被害者 Tが押したものは,実際は高圧進相用コンデンサの充電端子部分の赤いキャップであったため,右手親指.人指し指に感電火傷を受けた。と同時に,地絡継電器が動作し,受電用の負荷開閉器が開放となり,当事業場は全停電となった (9時 10 分頃).しかし,電力会社の配電線を停止させる 波及事故には至らなかった.
全停電となり,何がどうしたのかろうばいし た被害者 Tは,本社施設部へ連絡をとった. 9 時 3分頃,本社施設部の担当者が,当事業場の 電気設備の保安管理を委託している管理技術者 へ.冷蔵庫, ・冷凍庫関係の停電の模様なので至 急点検・修理をするよう依頼した.管理技術者 は,他の委託需要家で点検作業中であったため, 当該事業場に近い代行者に依頼する旨の返事を した.
9時 50分,管理技術者は,代行者へ当事業場 の状況を説明し,至急点検・修理に行くよう要 請した. 10時頃,管理技術者は.当事業場の責 任者へ代行者がそちらへ向かった旨連絡した.
10時 30分頃,管理技術者は,故障状況の確認のため,再度当事業場へ電話を入れた.当事業 場の責任者が電話に出て,当事業場が全停電し ている旨を話した.管理技術者は全停電の原因 を調べるため,被害者 Tに電話口に出てもらい 作業内容の説明を求めた.被害者 Tはキュービ クル裏面の扉をあけ,赤いビニールキャップの ついたもの(高圧進相用コンデ ンサの端子部) があ ったので,それを右手親指で押し,感電し た旨話した.
管理技術者は,被害者 Tが感電火傷したこと を知り,ただちに病院へ行くよう指示すると共 に,現場へ向かった.10時 45分,代行者が当事 業場へ到着し,現状を点検確認した.地絡継電 器の動作および負荷開閉器の開放を確認後,各 部分をチェックし,高圧機器類を一括して絶縁 抵抗測定を行った(絶縁抵抗は 90Mn).
1時 0分,負荷開閉器を投入し,受電する. 1時 38分,管理技術者が現場に到着し,設備の 状況を確認する.病浣から帰ってきた被害者 T へ再度,被害を受けた時の状況を問いただした. そして,キュービクル等受電設備に絶対触れな いよう,責任者および被害者 Tへ厳重に注意をした.
事故の原因
被害者 Tは厨房に勤める職員で,電気関係の知識はほとんどないにもかかわらず,冷凍機器 の故障の点検を,設備業者が電話で指示した内 容に従って,安易に作業実施に移った.点検指示内容のうち,赤いボタ ンを押せとい うことの み頭にこびりつき,ついに取扱者以外があけて はな らないキュービクルの扉をあけてしまっ た.さ らに,キュービクル内の赤いビニールキ ャップのついた高圧進相用コ ンデンサの端子部 を,設備業者の指示した赤いボタンと誤認して, 親指で押してしまった.
当事業場では, 1日 1回積算電力計の読みを 記録することとしており,キュービ クルの低圧 側扉を開閉して,電力量を読んできたこともあり,こ の習慣が,取扱者以外があけてはならな いキュービクルの扉を安易にあけさせてしまっ たものと思われる.
事故再発の防止対策
再発防止対策としては,次のようなことがあげられる.
(1) キュービク ルの鍵の管理を厳重にし,関係者以外の者が簡単に持ち出すことのないよ うにする.
(2) キュービクル内の高圧機器等をはじめ とし,電気機器の内部点検は,専門家にまかせ,職員が安易に点検作業に従事しないよう保安安 全教育を徹底する.
(3) 高圧進相用コンデンサの端子部分の前 面には,取扱者が充電部分に容易に触れるおそ れがないよう,ア ク リル板等で高圧危険の表示をする.
まとめ
作業者が現場で発生した事故情報、ヒヤリ・ハット情報を適切に収集し、組織的に事故防止のための対策を推進した場合、事故件数の減少や利用者からの信頼・評判の向上の効果が期待できます。
使用する設備・工具については、正しい使用方法と内在する危険性について理解させ、事故が起きないよう常に注意して使用するよう情報を共有しましょう。
働く人の安全を守るために有用な情報を掲載し、職場の安全活動を応援します。
働く人、家族、企業が元気になる現場を創りましょう。
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